朝日新聞のウソ1~埼玉県の教職員の早期退職記事を巡って~
1、要 約
埼玉県の教員の早期退職を巡り、朝日新聞は3本の記事(2013年1月22日、28日、2月16日)を掲載しました。その3本には6カ所9つの虚偽が含まれています。
報道直後からおかしさに気づき質問書を朝日新聞社に繰り返し送りました。朝日新聞広報部は具体的な説明は一切せず「虚偽はない」との回答書(2013年7月5日、7月25日)をよこして幕引きを図りましたが、結局隠しきれず3カ所について訂正記事(2015年3月30日)を出さざるを得ませんでした。
しかし、訂正記事は誠実なものではなく、真相を隠そうとするものですし、残る6カ所について依然ウソ隠しをしようとしています。
また、明らかな虚偽があるのに調べもせず「虚偽はない」と回答書を寄越したことは、質問者(私)をダマす行為です。
本稿では事実を報道すべき新聞社が
①記事で読者にウソをつき、
②広報部回答書で私にウソをつき、
③訂正記事でまた読者にウソをつく、
という相当に深刻な不良行為をした、その経緯について報告します。
2、概略説明
まず、記事に関する虚偽指摘と朝日新聞社の回答です。
続いて、広報部回答書についての質問と朝日の回答です。
つまり、当初の広報部回答書はウソ隠しを謀ったものなのです。
また、今回(2015年11月26日)の電話対応も匿名氏が朝日新聞社の代表として(電話の中で匿名氏はそう言っています)答えているのですから、新聞社としてまたウソ隠しをしているということになるのです。
3、経過説明
教員の早期退職記事3本(2013年1月22日、28日、2月16日)。
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虚偽があるとの質問書を送る(2013年2月から6月まで数回)。
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記事には虚偽はないとの広報部回答書(2013年7月5日、25日)。
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埼玉県教育委員会・さいたま市教育局に数値を確認した結果、朝日の数値が間違っていることが確定し(2013年10月)、繰り返し質問書を送る。
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編集部門の菊池功ゼネラルエディター補佐と面談し子細に説明する(2015年2月2日)。
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一部訂正記事が載る(2015年3月30日)。
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朝日新聞は2通の回答書に誤りがあったことを認める(2015年8月4日)。
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回答書を出すにあたって「原典である教育委員会のデータにあたったか?」について回答を拒否(2015年11月26日)。
4、問題の記事
この印をつけた部分に虚偽が含まれています。以後【 】の文章は朝日新聞記事を示しています。
5、質問書の内容
速報(2013年1月22日)の虚偽
虚偽1 【公務員改革に詳しい新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「児童生徒が理由を知ったら信用を失う」と話す】
指摘1 新藤宗幸さんは2通りのコメントを出したのか?
新藤宗幸さんのコメントは「理由を知ったら=退職金減額を避けるための早期退職」と読めるようになっています。ところが、同日付の埼玉地方版では、【東京都市研究所常務理事の新藤宗幸さん(66)は「減額を急ぐ必要はなく、児童や生徒に迷惑がかからないようにするべきだった。先生や学校に対する信用を失うだろう」と話している】と載っています。
東京本社版は信用を失う理由として退職金目当ての早期退職を、埼玉地方版は急な制度変更を挙げています。同一人物が、同じ事象について、同じ言葉で、別のことを述べるのは不自然すぎます。大津正一さいたま総局記者(2015年1月現在成田支局記者)は新藤宗幸さんに2通りの取材をしたのでしょうか?
詳報(2013年1月28日)の虚偽
虚偽2 【早期退職する教員が相次いだ】の文章の後に【文部科学省の25日まとめでは、2月までに施行する10都県での退職者(予定者含む)は、埼玉123人、佐賀36人、徳島12人、熊本1人。】
指摘2 【早期退職する教員が相次いだ】ことを述べるなら教員の数値を使うべきではないか?
見出しに「教職員」を使い数値も「教職員」のものですが、その中に「教員」をすべり込ませています。詳報は大津正一記者に加えて、氏岡真弓編集委員の連名記事で、氏岡さんは教育を専門とする編集委員ですから、こんな初歩的な誤りはしないはずですし、次に指摘する虚偽3でも同じ表現をしていますから、ミスではあり得ません。
文科省発表の早期退職教員の数値は埼玉99、佐賀23、徳島4人と書くべきですが、【早期退職する教員が相次いだ】ことを印象付けたいために、水増ししたのです。
虚偽3 【早期退職者が128人にのぼる埼玉県では、副担任や臨時採用教員で欠員を埋める方針だ。】
指摘3 教員の早期退職を128人と誤読させる詭弁。
通常この文章は「早期退職教員が128人いて、副担任や臨時採用教員でその穴埋めをする」と理解します。
この文章の前半は「早期退職者」、後半は「教員」について述べています。教職員の数値を使っているのだから最低でも「早期退職教職員が128人にのぼる埼玉県では、」としなければならない(それでも相当悪質な詭弁です)のですが、もっと誤読させるために「退職者」という用語にしています。
虚偽2で教員と教職員を読者に同一視させておき、虚偽3ではそれがバージョンアップして教職員をさらに薄めて退職者にし、教員の退職者=128人と誤読させようとする高等テクニックです。恐るべき大津正一記者・氏岡真弓編集委員の文章力。
虚偽4 【「子より金信じたくない」保護者】
指摘4 エピソードからは「先生ありがとう」の見出しになるはず。
この見出しに該当するエピソードは次の部分です。
【同市で】小学校に娘を通わす母は、担任の早期退職を知り、「子どもよりお金を選ぶとは。信じたくない」。だが、3日後、この担任は早期退職を撤回した。退職金減額を受け入れて残ってくれるなんて……。連絡帳に大きな文字で「先生、ありがとう!!」と書くつもりだ。】
よく読めば退職を撤回した担任に保護者が感謝しています。日本語では結句に重きがあるのだから、「先生ありがとう」でなければおかしいのです。短大の学生に状況説明をして見出しを選ばせたところ、ほとんどは「先生ありがとう」を選びました。
非常に悪質な誘導見出しで、言論テロです。
論評(記者有論:2013年2月16日)の虚偽
虚偽5【埼玉県の公立学校の教員108人を含む県職員139人が…】
指摘5 主語は県職員139人ではなく、「埼玉県の公立学校の教員108人」にしなくてはいけません。
この記者有論は埼玉県の教員の以外の早期退職については論評していません。従って、主語は教員でなければいけません。主語を替えて108人を139人に水増しした詭弁です。
虚偽6 【早期退職者には小中高のクラス担任が30人いた。受験を控えている時期なのに、11人分の穴埋めができていない(2月1日時点)という】
これも、良い意味ではありませんが、大津正一記者のたぐい稀なる文章力を示すものです。いくつものウソを重ねて、事実とはあらぬ方に読者を誘導するものです。
この文章をそのまま読めば「小中高のクラス担任30人が早期退職し、そのうちの11人の担任の穴埋めができず、受験を控えて子どもたちが困っている」と読めます。
しかし事実は次のようなことです。
指摘6A 教育委員会報道発表の数値と違っています。支援学校の9人を小中高に加えて水増ししています。
埼玉県教育委員会・さいたま市教育局の報道発表では小学校13人、中学校5人、高等学校2人、特別支援学校9人となっています。
当初は埼玉新聞に「小学校13人、中学校5人、高等学校2人、特別支援学校9人」と出ているが、どちらが本当か? という質問でしたが、2013年10月に埼玉県教育委員会・さいたま市教育局に問い合わせた後は、「小学校13人、中学校5人、高等学校2人、特別支援学校9人」が正しい数値で、朝日新聞は誤っているという指摘に変えました。
大津正一記者は支援学校の9人を小中高等学校に加えて30人と水増ししたのです。
指摘6B 11人を担任と誤読させる文章です。2月1日時点で穴埋めができていない11人は担任以外の教員です。
読売新聞(デジタル版:2013年2月2日)によれば、「担任30人はすべて後任が決まった」とあります。ですからこの11人は担任外になります。【早期退職者には小中高のクラス担任が30人いた。受験を控えている時期なのに、11人分の穴埋めができていない(2月1日時点)という】とクラス担任を前振りに使うことにより、担任外を担任と誤読させる詭弁です。
指摘6C 2月16日の記事なのに「穴埋めができていない(2月1日時点)」は非常に不適切です。
上田清司埼玉県知事は2013年2月5日記者会見で「(明日)6日の時点で全く問題のない状態になっている。…私が思っていた以上に、現場では混乱がないという報告を聞いています」と言っています。この発言は朝日新聞記者の質問に答えてのものですから、大津正一記者も当然知っているはずです。2月16日の記事にまだ問題がありそうな表現をするのは非常に正確性を欠いて不適切です。
指摘6D 受験学年と11人は関係ありますか?
埼玉県教育委員会、さいたま市教育局は早期退職担任が受験学年にいたかどうかは発表していません。それさえ発表していないのに、11人が受験学年と関係があるのか根拠はあるのでしょうか。
また、「6日の時点で全く問題のない状態になっている」(上田知事)のですから、11人の担任外の教員の空白期間は2月1日(金)、2月4日(月)、5日(火)の最大3日間です。病気になればこの程度の休みは当然あり、しかも担任外の出授業ですからこの3日間の当該授業はせいぜい1~2回です。その期間は時間割変更で対応でき、大騒ぎする内容でしょうか。
6、回答書のウソ
この質問書に対し、朝日新聞広報部は虚偽は「意図的に歪曲した事実は一切ない」との回答書を寄越しました。
1回目の回答書(2013年7月5日)が届いたときは、朝日新聞の良識を信じていましたから目を疑いました。
また、「個々の記事の取材の過程については、取材源秘匿の原則にも関わるため、お答えしておりません」の文言には唖然としました。
なぜなら、その前に佐藤修史社会部次長(当時)からで、反省すべき点は多々あるけれど取材源秘匿の原則にかかわるので、取材の経緯には答えられない、という内容の書簡をもらっており、取材源秘匿の原則に該当しない部分で質問書を作り直し、その旨明記して送ったにも関わらずだったからです。
しかし2回目の回答書(2013年7月25日)でも虚偽は一切ないとの内容でした。
文部科学省のHPや埼玉県教育委員会・さいたま市教育局の報道発表は取材源秘匿の原則には当たりません。それに当たれば正誤がわかる指摘になっているのですから、何かの手違いだろうと思い、「この回答書を反故にしてよいから、もう一度調べなおして回答書をください」と要望しました。
広報部に電話をかけると内屋敷敦広報部員(2015年1月現在鹿児島総局記者)は「埼玉新聞には言及しません。朝日新聞が正しいです」と言って電話を切りました。
真実を解明しようとする姿勢があれば、埼玉県教育委員会・さいたま市教育局の報道発表資料や文部科学省のHPにあたるはずですが、「埼玉新聞には言及しません」ということばを聞いて、この新聞社は本当に隠ぺいするつもりなのだと確信しました。
埼玉県教育委員会・さいたま市教育局に問い合わせた結果、埼玉新聞が正しく朝日新聞が誤っていることが確定しました(2013年10月)。
この事実を繰り返し朝日新聞社に伝えたのですから、朝日は間違いがあることを知りながら、黙殺したということです。
転機は、2014年9月に訪れました。
朝日新聞社は池上彰さんの原稿掲載拒否、慰安婦の吉田証言のウソを32年間黙殺してきたこと、福島第1・第2原発事故に関する吉田調書の歪曲報道の反省として、社長の引責辞任、関連記事の削除、再発防止策の発表などを行いました。
この時期ならば考え直すかもしれないと思い、2014年11月1日に「信頼回復と再生のための委員会」と朝日新聞社会部・社会部教育班に質問書を送りました。
その結果、2014年12月5日にかけた電話で、朝日新聞社内で対応部門が広報部から記事内容の総責任部門である編集局で「検討中」であることがわかりました。
藪塚謙一管理本部主査より2015年1月22日電話があり、2015年2月2日に私の研究室で、会談を持ちました。菊池功ゼネラルマネジャー補佐と藪塚さんがみえ、私が質問書について説明し、菊池功さんが記録して持ち帰るという内容でした。
2015年2月12日に菊池功さんより「来週中には文書で回答します」と電話がありました。
2015年2月20日に「今週中に回答するはずだったが、『前例がないこと』なので、紙面で回答する」との電話がありました。紙面には3月初旬に出るとのことでした。
2015年3月11日菊池功さんより書簡が届きます。内容は、
・教員と教職員を混同した点、特別支援学校を小中高等学校に含めた点は表現に配慮が足りず、反省している。
・見出しに関する指摘は、今後の紙面づくりに生かしたい。
・記者有論については紙面で修正したい。
・記事と広報部回答について重く受け止める。
というものでした。
私はメールで次のように返信しました。
・記者有論の修正ではなく、3本の記事について訂正または削除が必要。
・質問書の項目それぞれに回答(或いは紙面での訂正)をいただきたい。
7、訂正記事(2015年3月30日)のウソ
虚偽指摘から2年後にやっと訂正し関係者におわびする記事を出しました。
ところが、これがかなり不誠実な内容でした。3本の記事の9か所の指摘のうち3つしか訂正していませんし、その訂正も恣意的なものです。
なぜ不誠実と言えるのか?
・【早期退職者には、小中高のクラス担任が30人いた。受験を控えている時期なのに、11人分(2月1日時点)の穴埋めができてないという】の記事を、【早期退職者には小中高と特別支援学校のクラス担任が30人いた】と訂正しました。これは指摘6Aに対するものですが、他の所で騒ぎを大きく見せる水増し詭弁を多用しているのですから、特別支援学校を配慮を欠いて落としたのではなく、水増しと考える方が妥当です。
・【受験を控えている時期なのに】は【児童・生徒全員が受験を控えているわけではありませんでした】としました。これは指摘6Dに対するものですが、巧妙に主語をすり替えています。「クラス担任30人」でも「(クラス担任ではない)11人」いずれかを主語に記事の文章を訂正するのが筋ですが、それらを主語にしては訂正しようがなかったのです。
・【11人分(2月1日時点)という表現は2月1日というただし書きを入れているとはいえ、掲載時点では不適切でした】と訂正しました。これは指摘6Cに対するものです。
ということは訂正内容に従って、【早期退職者には、小中高のクラス担任が30人いた。受験を控えている時期なのに、11人分(2月1日時点)の穴埋めができてないという】という文章を手直しするとどうなるのでしょう。11人分云々は不適切なわけですから削除すると、
早期退職者には小中高と特別支援学校のクラス担任が30人いた。児童・生徒全員が受験を控えているわけではありませんでした。
こんな文章になってしまいますが、これは何を言っているのか意味が読み取れません。
【11人分(2月1日時点)の穴埋めができてないという】という表現が「2月1日というただし書きを入れているとはいえ、掲載時点では不適切」ならば、「早期退職者には小中高と特別支援学校のクラス担任が30人いた」との訂正自体も不適切です。クラス担任30人は全員2月1日までに穴埋めができています(読売新聞デジタル版:2013年2月2日)から。
書くとしたら、
早期退職者には小中高と特別支援学校のクラス担任が30人いたが2月1日時点ですべて穴埋めはできた。
でなければ、いけないのです。
ウソ隠しをするから、自家中毒を起こしているのです。
8、ウソ隠しをする朝日新聞社
訂正記事を出した後、朝日新聞広報部は回答書に誤りがあったことを認めました(2015年8月4日)。
私は広報部回答書(2013年7月5日と25日の2通)を出すにあたって、なぜ誤りがあったのか説明を求める質問書を送りました(2015年11月2日)。
内容は次の3点です。
①回答書を出すにあたり、埼玉県教育委員会・さいたま市教育局に確認しましたか?
②回答書を出すにあたり、「誤りはない」と判断した根拠をご教示ください。
③私の質問書の内、朝日新聞社はどれが誤り(不適切な表現)で、どれが誤りではないと判断しているのか個別にご説明ください。
回答をいただけるか広報部に電話(2015年11月26日)をかけたのですが、電話対応者は名乗ることを拒否します。和気靖広報部長か次長クラスだと思いますが、朝日新聞社の代表としての対応を述べるのに匿名とは驚きました。やましさを感じているのでしょうか。
また、「回答書を出すにあたり埼玉県教育委員会・さいたま市教育局に確認しましたか」という単純明快な質問に「答えを差し控えさせていただきます」の一点張りでした。ウソでしたと言いたくないなら、答えを差し控えるしかないからです。確認したと答えれば誤りがあることを知りながら回答書を出したことになり、確認しなかったなら何を根拠に出したか説明がつかなくなってしまうからです。
※ 朝日広報部匿名氏との電話のやりとりです。
9、結び
朝日新聞社は2014年の不祥事を契機に信頼回復と再生のための行動計画「ともに考え、ともにつくるメディアへ」(2015年1月5日)を策定し公表しました。
その冒頭に、
1、公正な姿勢で事実に向き合います
事実に基づく公正で正確な報道こそが最大の使命です。社外からの指摘に謙虚に耳を傾け続けます。事前・事後のチェック体制をしっかり構築し、間違いは直ちに正す姿勢を徹底します。
と謳っています。
今回の朝日新聞のウソ(記事のウソ・広報部のウソ・その隠ぺいを謀る朝日新聞社のウソ)は社会の灯台であるべき新聞社が自社の「最大の使命」に唾するものです。
まともな新聞社として再生する道は険しいとしか言いようがありませんが、朝日新聞社には不良行為をすべて明らかにし、文字上だけではない本当の反省を示し、更生の道を歩むことを期待します。
※ より詳しくお知りになりたい場合は、拙ブログ「のめしこき日記」の「朝日新聞のウソ」のエントリーをご覧ください。
※ 朝日新聞の誤報訂正については「Gogoo マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト」に経緯が掲載されています。「教員の早期退職問題 朝日、2年ぶりにコラム訂正」(http://gohoo.org/15040701/)のタイトルで、誤報レベル0から7(悪質かつ深刻な誤報)の5と判定されています。全面訂正すれば、9ヵ所の虚偽ですから誤報レベルは7になったと思いますが、訂正した範囲内で判定したということです。
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